どうもこんにちは。
Aircon Media空調技術ディレクターの小林です。
みなさま「マルチエアコン」というエアコンはご存知でしょうか。
マルチエアコンというのは、1台の室外機に5台程度までの複数台の室内機を接続できる空調システムのことを指します。主に業務用で採用されるシステムですが、家庭用も存在し「家庭用マルチエアコン」などと区別して呼びます。
日本で使用されている家庭用エアコンは、そのほとんどが室内機と室外機が1対1接続の「ペア」タイプであり、マルチタイプはあまり馴染みがないという方が多いでしょう。実はシンガポールなどのマンションではマルチタイプが好まれ、海外では割とメジャーなエアコンなのです。
家庭用マルチエアコンはその特性上、ペアタイプに比べシステムが大掛かりになるため修理や入れ替えの時にお悩みが発生することも少なくありません。しかし適切な空調システムを構築しておくことでそのリスクを低減したり、快適性や経済性で優れた効果を生み出すことが可能な優れたシステムです。マルチエアコンにご興味のある方に対してどこよりも有益な情報をたくさん掲載しますので、最後までゆっくりお読みになって理解を深める一助としてください。
マルチエアコンの歴史
マルチエアコンは時代背景を反映させてきた
個室ニーズの再来
マルチエアコンの種類とメーカー
ダイキン | 三菱電機 | パナソニック | 日立 | 三菱重工 | |
パック商品 | あり | なし | なし | なし | なし |
接続台数 | 2〜5台 | 1〜5台 | 2〜4台 | 2〜4台 | 1〜5台 |
1台のみ接続 | 不可 | 可 | 不可 | 不可 | 可 |
床暖房接続 | 可 | 不可 | 不可 | 不可 | 不可 |
マルチパックとは
接続台数とは
マルチエアコンのメリット
1. エクステリアがスッキリする
2. エクステリアを有益に使える
3. 暖房の立ち上がりが早く、暖房が暖かい
4. 分電盤の容量にゆとりが生まれる
通常のペアタイプのエアコンの場合、主に個室に使用する容量(〜3.6kW)では100V電源を使用します。エアコンは内線規定で専用回路の敷設が義務付けられています。運転開始直後はそれぞれ15A程度を消費しますし、電子レンジや電気ポットなども同じ100V電源です。エアコンが複数台あれば契約電流値を超えてしまい、いわゆる「ブレーカー落ち」になるリスクがあります。
マルチエアコンなら室内機ごとではなく「室外機ごと」に200V電源を使用しますので、一般的なご家庭であればブレーカー落ちのリスクを低減できます。マルチエアコンだけでなくペアタイプのエアコンをうまく組み合わせ、100Vと200Vに振り分けることで分電盤の容量にゆとりが生まれ、エコキュートやEV充電設備の導入も検討できるでしょう。
5. 室内機に電源コードがなくスッキリ
通常のペアタイプのエアコンの場合、多くは室内機の横のコンセントから電気を供給します。マルチエアコンは室外機に電源ケーブルを直接差し込んであり、そこから各室内機に電気を送っていますので室内機に電源コードがありません。
画像: risoraマルチ仕様機(本体色ダークグレー+パネル色ウォルナットブラウン)
ダイキンrisora(SXシリーズ)のようにデザインにこだわった機種の場合はなおさら電源コードがないとスッキリ見えます。
このようにマルチエアコンならこだわりの室内空間をより一層際立てることができます。
マルチエアコンのデメリット
1. 更新の際、一度に多額の出費になる
通常のペアタイプのエアコンの場合「毎年ひと部屋ずつ入れ替える」など、一度に多額の出費とならないように更新計画を立てやすいのですが、マルチエアコンの場合はシステム全体を一度に更新するのが原則。新設の際は費用面で大差なくても更新時の見積りに驚かれ、二の足を踏まれるケースが少なくありません。
→対策
- 新設時にできる対策: 2〜3台など小規模なマルチ構成に分けておく
- 更新時にできる対策: (後述)
これを避けるためには設備の特性を理解し、可能な限り修繕費用を積み立てておく必要があります。
2. 室外機が重故障するとシステム全体がダウンする
室外機を1台にまとめられる反面、コンプレッサーや各種電子弁など室外機内部にある主要部品が故障するとシステム全体で異常が発報され運転できなくなります。すぐに修理できれば1週間以内に復旧できることがほとんどですが、真夏ならかなりの痛手です。
→対策
- 新設時にできる対策: 2〜3台など小規模なマルチ構成に分けておく / 寝室はペアタイプのエアコンを採用する
3. 超省エネ機種は選べない
これには理由が二つあります。
まず、各メーカーともにマルチエアコンの製品改良は数年に一度であるからです。出荷台数がペアタイプのエアコンに比べ圧倒的に少ないからでありますが、これはペア対マルチという考え方は正確ではなく、マルチタイプが含まれる「ハウジングエアコン」自体の特徴です。ハウジングエアコンは埋込形などを含みます。埋込形は製品サイズや基本仕様が10年前と変わっていては更新できませんから、変わっていないことも大切な要素なのです。
埋込形エアコンの詳しい説明はコチラ
次に、マルチエアコンの室外機はある程度汎用的にできているからです。接続する室内機が壁掛形かもしれないし、天井埋込形かもしれないし、床置形かもしれません。そのようなマルチの特性上、室外機はどのような室内機が接続されても効率よく運転できるように汎用的に作られています。最新の超省エネフラッグシップエアコンは、室内機と室外機で独特の最新機構を有し、それらが綿密にコミュニケーションを取り合って制御することでその省エネ性能を実現しています。ですから、マルチエアコンの室外機はそれに比べれば大雑把であり、超省エネな室内機を接続することはできません(たとえできたとしても、期待するような超省エネな性能は発揮できません)。
マルチエアコン自体が省エネ性に劣ると書かれているサイトも散見されるようですが、それは言い切れないでしょう。少なくとも私は実名で記事を書いている以上、そのような断言はできません。限られた評価手法で評価された、いわばカタログ数値の燃費のようなものでは最新機種に劣る場合がありますが、使い方によってはペアタイプよりも優れた省エネ性能を発揮できます(たとえばマルチエアコンなら室外機が大きいため、暖房時の除霜回数が少ないことなど。除霜影響は現在のカタログ数値には反映されていません)。
「1台だけ交換」や買い増しは可能か?
可能な場合があります。ただし1台目および室外機お買い上げ日からの経過年数によっては「1台だけ交換」や買い増しが不可能なことがあります。特にシステム全体で年数が経過している場合は、論理的には説明しにくい現象ですが、わずかなバランスが崩れ故障につながることもありますので総入れ替えをおすすめします。
出典: ダイキンマルチエアコン室内機取扱説明書
予算が限られシステム全体で総入れ替えができない場合にとられる手法の一つに、ペアタイプのエアコンに変更する(マルチを解消する)というものがあります。これは部屋にエアコン用コンセントがすでに用意されている場合で追加の電気工事が不要な場合にとられることがあります。マルチで組んでいた他の部屋を今後使用しないことが明らかな場合においては得策でしょうが、そうでない場合はその場凌ぎにすぎず、避けた方がよいでしょう。
一方で、もう一つの手法があります。これはご存知の業者様がほとんどいらっしゃらないこともあり滅多に見かけない手法ですが、室外機と1台の室内機だけ更新しておき、残りの室内機の更新は半年後や翌年に繰り越すというものです。じつは三菱電機製のマルチエアコンは、現行型に限り室内機1台のみでの接続が可能です。この際、1台目更新から可及的速やかに(モデルチェンジをしないうちに)他の部屋の室内機も更新することが重要ですが、大規模なモデルチェンジを挟んでしまったり数年放置してしまったりすると、他の部屋が更新できなくなるリスクがあります。
いずれの場合においても、マルチエアコンは美観性や快適性を得られる反面「設備」としての一面が強く、プロに相談しながら購入を進める必要があります。故障する前にお早めにご相談ください。
また新築をご検討のお客様は、ハウジング・マルチエアコンを早期にプロと検討することで、ワンランク上の理想的な空調を実現できます。
ハウジングエアコンの詳しい説明はコチラ
マルチエアコンFAQ
マルチエアコンに関するFAQをいくつか紹介します。特にメリット・デメリットのなかに含めることのできなかった内容もFAQ方式で掲載します。新たなご質問はこの記事のコメントでお寄せください。
Q1. 同時運転すると冷暖房のパワーが下がるのは本当ですか。
A1. 場合によっては本当ですが、ほぼ心配不要です。マルチエアコンを採用する際にプロが行うシステム設計では、業務用マルチエアコン(いわゆるビル用マルチ)と同じ考え方を用います。つまり、すべての部屋のエアコンが負荷100%で運転することなどあり得ない、という考え方です。そのためカタログ的に許容された範囲まで室内機の合計容量を室外機容量よりもオーバーさせて組み合わせます。業務用で厨房や体育館などに設置する場合はともかく、一般家庭ですべての部屋が負荷100%近くで運転するというのは現実的ではありませんね。ですから室外機が最大能力で運転することなどほぼありませんので、心配不要です。
Q2. 冷暖同時運転はできますか。
A2. できません。家庭用だけでなくビル用マルチエアコンでも基本的にはできません。余談ですがビル用では冷暖同時機も存在し、ホテルで客室ごとに自由に冷暖房が選べるのはこれを採用しているからです。
Q3. システム構築で留意すべきポイントはありますか。
A3. たくさんあります。たとえば「運転時間」「フロア」「リスク対策」が挙げられます。LDKと寝室を同じ室外機の系統に組み込んでしまうと室外機が24時間休めない場合があり、劣化が早まる可能性があります。さらに1階と最上階では室温が異なりますので、春や秋などの中間期では冷房需要と暖房需要が重なり、同時には運転できません。先ほどお話ししたようにリスク対策も重要で、寝室はペアタイプにしておくなど故障時の想定も必要です。詳しくはプロにご相談ください。
Q4. 現在ペアタイプのエアコンを使用していますが、今後マルチに変更できますか。
A4. 可能な場合もありますが、電気工事が必要な場合があります。マルチエアコンは室外機に直接電源を供給しますので、お使いのエアコンが室内電源の場合は室外機まで電線を引く工事が必要です。また室外機と室内機の配管長が許容値を超える場合はシステム構築不可能です。
Q5. 5台を超えて接続できる家庭用マルチエアコンはありますか。
A5. 家庭用ではありませんが、家庭用電源で動く業務用マルチエアコンがあります。開業医などクリニック兼住宅の場合に、6台以上のマルチエアコンをお使いの場合があります。現在家庭用マルチエアコンの上限は5台ですが、三菱電機業務用マルチエアコン「Fitマルチ」であればより大規模なシステムが構築できます。5馬力(14.0kW)までであれば家庭用の単相200V仕様があるので、動力電源の契約が不要です。
Q6. マルチエアコンでよく使われるメーカーはどこですか。
A6. ダイキン、ついで三菱電機です。どちらも都心の高級マンションで数百、数千台単位で長年採用されています。
Q7. 海岸近くに住んでいますが、マルチエアコンに耐塩害仕様はありますか。
A7. あります。故障すると大掛かりな出費になるからこそ、ご購入時に適切な仕様を選ぶことでそのリスクを手当てなさることをお勧めします。
Q8. エクステリアにこだわるため室外機を塗装したいのですが、可能ですか。
A8. 可能ですので、ご自身では塗装しないでください。メーカー出荷後に塗装したものは改造扱いとなり、保証の対象外になったり、故障時に修理を断られたりします。注文時に特注の形でメーカーに塗装を依頼してください。塩害対策の防錆塗装も同様です。
Q9. マルチエアコンは運転音が大きいですか。
A9. 通常のペアタイプとほとんど変わりません。ただし、コンパクトなボディーでしっかりとした熱交換を行うためファンモーターの出力は業務用機並みです。送風音は若干大きい場合があります。室外機の据付場所はプロとよく相談のうえ決定してください。
Q10. マルチエアコンで室外機だけ交換はできますか。
A10. できる場合がありますが、一般的ではありません。室外機が早期に重大な故障を起こしたり盗難に遭った場合に室外機だけ交換を望まれる場合がありますが、設置年月が経過するほどシステムの通信方式の変更が理由で実現不可能なことがあります。
Q11. マルチエアコンの工事費は高いですか。
A11. 一般的なペアタイプとほとんど変わりません。工事費は現場ごとに大きく変化しますので一概には言えませんが、ペアタイプとほとんど変わりません。一度にすべてのエアコンを更新するため実際よりも高く感じられることがあります。
Q12. マルチエアコンを省エネに使う方法があれば教えてください。
A12. 部屋を移動する際は停止前に2台目を運転してください。つまりは系統内すべてのエアコンがOFFになる室外機の完全停止を避けることがポイントです。キッチンで料理した後ダイニングに移るときは、キッチンのエアコンを止める前にダイニングのエアコンをつけてください。そうすることで効率よく安定的に室外機のパワーを他の室内機に移すことができます。マルチに限らず、ペアタイプのエアコンでもいったん室外機を停止させると5分程度起動できず、再起動には時間がかかります。これはコンプレッサーの故障を防ぐための安全制御です。
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