エアコンの塩害によるトラブルを防ぐには?プロが解説する対策術

どうもこんにちは。
Aircon Media空調技術ディレクターの小林です。

日本は四方を海に囲まれた島国であり、塩害対策は必須です。なおかつエアコンは機械内部や配管に結露が発生する製品なので、もっとも錆びやすい製品の一つと言っても過言ではありません。

しかしエアコンの塩害対策なんて聞いたことがないという方も多いことでしょう。

ではどのような対策が可能で、どれほどの効果が期待できるのかを説明していきます。

海沿いの方、必見です。どうぞよろしくお願いします。

各メーカーからは専用の仕様が発売されている

初めて知る方が多いかもしれませんが、ダイキンや三菱電機など、国内の主要メーカーからは、カタログ通りの「標準仕様」に加え、次のような仕様が発売されています。
  • 寒冷地仕様
  • JRA耐塩害仕様
  • JRA耐重塩害仕様
  • 防食仕様

(JRA: ⽇本冷凍空調⼯業会標準規格 の意)

このうち、「寒冷地仕様」に関しては低外気温時の暖房能力アップを目的に、よりパワフルな圧縮機が搭載されていたり、室外機に吹き込む雪を溶かす装置が備わっていたりする仕様です。

次に「JRA耐(重)塩害仕様」というものは、塩害による腐食の低減を目的に海から近いエリアに設置される方のために用意された仕様です。比較的海に近い場合は「重」がつく仕様を選びます。詳しくはこのあと説明します。

最後の「防食仕様」というものは、温泉地や工業地帯などの特殊環境下における腐食の低減を目的とした仕様で、三菱電機から発売されています。これは極めて珍しい仕様なのでここでは割愛することにします。

また、寒冷地仕様+JRA耐重塩害仕様 のように、寒冷地仕様とほかの仕様を組み合わせることもできます。

海から2km以内は要注意

先ほどの「JRA耐塩害仕様(以下、塩害仕様)」と「JRA耐重塩害仕様(以下、重塩害仕様)」について簡単に説明しましょう。

 JRAとは日本冷凍空調工業会標準規格のことを指し、塩害のレベルに応じて二つの仕様がラインナップされています。比較的塩害が軽い場合は塩害仕様、重い場合は重塩害仕様を用います。それぞれの目安としては表の通りで、簡単に言えば

  • 海から300m以内は重塩害仕様
  • 海から300m超え1km以内は塩害仕様

という括りになりますが、実際には風の向きや設置場所なども考慮する必要があります。

メーカーや機種によっては重塩害仕様がない場合があり(例えばダイキン「うるるとさらら」)、その際は下位の塩害仕様を用いるか、他の機種を選定する必要があります。

海沿いに普通の室外機をつけると寿命はどうなる?

 では海沿いに標準仕様の室外機を据え付けるとどのようなことが起こるのでしょうか。

 一つは電気代の増加です。空気と冷媒の熱を交換する「熱交換器」という部品が腐食すると、伝熱性能が低下します。この低下率は、塩害地域15年相当でおよそ5割近くになります(*)。その場合の年間消費電力は12%増加し、電気代を押し上げる要因になります。

 もう一つは重大な故障リスクの増加です。先ほど「伝熱性能が低下する」と書きましたが、これの弊害は電気代の増加だけではありません。電気代が増加するということは、それだけエアコンに無理な負荷が加わっているということです。過酷な環境下で運転していることになるので、例えば真夏の昼間に放熱が追いつかず異常停止したり、コンプレッサーが焼き付いて故障してしまうかもしれません。
 これを耐え抜いたとして、さらに「熱交換器」の腐食が進行するとどうなるでしょうか。次第に銅の配管が腐食していきます。配管が腐食すると小さな穴が開くようになり、ここから冷媒ガスが抜けていきます。人間で言うと血液が抜けた状態となり、生きていけるわけがありません。エアコンは故障し、これを修理するのは不可能ではありませんがかなり高額です。

 何を以って寿命とするかによりますが、正直適切な機種で適切な工事をしていれば、エアコンは10年どころか15〜20年くらいは持ちます。私は空調の研究寄りの人間ですが、街中で2002〜2007年式のエアコンも山ほど見かけます。①運転不可能な重故障の発生、②経済的にみて更新が妥当なほどランニングコストが上がった状態 を寿命とするならば、適切な仕様を選定しない場合5〜10年程度、実際の寿命が短くなると考えていただくのが良いかと思います。勿論、その地域の風向きやエアコンの使用頻度、運転環境などにもよりますので一概には言えません。

さまざまなリスクを減らすために

 塩害仕様や重塩害仕様は、標準仕様に比べてどのような点で優れているのでしょうか。

 一見普通の室外機に見えますが、実はねじ一本から対策が施されています。ダイキンの重塩害仕様ではキャラメル色の塗装になるなど、室外機の内部だけでなく見た目までもが変わります。
 

標準仕様 – 耐塩害仕様 – 耐重塩害仕様の価格差は?

 機種によって金額差が異なりますので、ここで示す価格差は目安としてお考えください。
 ・家庭用ベーシックモデル2.8kW(1馬力)
 ・家庭用フラッグシップモデル6.3kW(2.5馬力)
 ・業務用3・10馬力 の場合です。

  標準仕様 JRA耐塩害仕様 JRA耐重塩害仕様
家庭用1馬力(2.8kW) (基準) 標準+5,000円〜
+10,000円程度
標準+20,000円〜
+30,000円程度
家庭用2.5馬力(6.3kW)
業務用3馬力(8.0kW) 標準+30,000円程度 標準+55,000円程度
業務用10馬力(28.0kW) 標準+65,000円程度 標準+150,000円程度

 この金額の捉え方は個人個人で異なるでしょうが、もし標準仕様機を据え付けて早期に故障した場合のリプレースにかかる費用を考えれば、決して高くありません。

シャープ一部機種など、標準で耐塩害仕様に準拠して差別化を図っている機種もあるんです。言わば、標準仕様の価格に塩害改装費用が含まれているということですね。

仕様の特性を抑える必要あり

 しかし、塩害仕様というのは寒冷地仕様などと違い「ポジティブなオプション」ではありません。寒冷地仕様は暖房が強くなるという特徴がありますが、塩害仕様を一言で表すならば「朽ちる速さが遅くなる」というものです。そのため「ネガティブなオプション」と表すこともできるでしょう。言うならば、標準仕様と比べて寒冷地仕様はプラスのオプションで、塩害仕様はマイナスになりにくくするためのオプションです。マイナスになりにくくするためにはプラスに作用する必要がありますが、それは腐食に対しての効果であり、塩害仕様を採用したことで直接的に暖房が強くなるだとか、部屋がいい香りになるだとかいう付加価値はありません。

つまり塩害仕様は「あたりまえに動く」ためだけにあります。

Aircon Mediaでは、家庭用ルームエアコンすべての製品を10年間保証しています。なぜそのようなことをすると思いますか? せめて追加料金のオプションにすればいいのに、と思われる方も間違いなくいらっしゃることでしょう。Aircon Mediaが10年間保証する理由は、私たちはただのエアコン工事をするつもりがないからです。

エアコンは目に見えない空気を扱う特性上からか、建物の設計段階で軽視されがちです。少し専門的な見解になるかもしれませんが、エアコンを含む空気調和工学では、36〜37℃程度の人体と、人が快適に感じるとされる24℃の空気との間で快適に効率よく熱交換できるような環境を整えることを「空調」といいます。そのための道具としてエアコンがあるのです。つまりエアコンは人の快適性にかなり密接に関係しています。そんなエアコンをあたりまえに動くようにすることが我々Aircon Mediaの仕事です。

Aircon Mediaはエアコンが設置された空間の快適性、つまり付加価値を高い状態で長いこと維持するために工事を請け負います。工事を請け負ったからには、そのエアコンが最後の仕事を全うするまで面倒を見ます。そのため10年保証をおつけしています。塩害地域のお客様であれば塩害仕様機を提案させていただきます。

エアコンは本来、売っておしまいの製品ではありません。海沿いのお客さまであっても長いこと快適に、そしてあたりまえにエアコンが動いてほしいという思いで各メーカーは塩害仕様機を用意しています。

施工事例には塩害仕様機の事例も多数掲載しております。よろしければご覧ください。

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耐塩害・耐重塩害仕様 据付上および維持管理上のご注意

■据付上の注意(維持管理について)
JRA耐塩害仕様機・耐重塩害仕様機は素材や塗装内容を強化していますが、腐食に対して万全ではありません。
このため、次のような据付計画と保守を行うことで防食効果を高める必要があります。

  1. 海水飛沫および潮風にさらされることを極力回避するような場所へ設置してください。機器の設置は建物の風下にしてください。やむを得ず海岸面に機器を設置する場合でも、防風板を設けて直接潮風が当たることを避けてください。据付方向に注意してください。海岸面に並行と直角では腐食度合いが異なります。
  2. 外装パネルに付着した海塩粒子が、雨水によって十分洗浄されるように配慮してください。
  3. 室外ユニット底ベースへの水の滞留は、著しく腐食作用を促進させるため、底ベース内の水抜け性を損なわないよう傾きなどに注意してください。
  4. 海岸地域への据付品については、付着した塩分などを除去するために定期的に水洗いを行ってください。
  5. 水はけの良い場所に設置してください。特に基礎部分の排水性を確保してください。
  6. 据え付け、メンテナンスなどに付いた傷は、必ず補修してください。
  7. 機器の状態を定期的に点検してください。必要に応じて再防錆処理や部品交換などを実施してください。

■メンテナンス時の留意事項

  1. 機器のメンテナンスを十分に行ってください。
  2. シーズンオフなど長時間機器を停止する時は、機器にカバーをかけるなどの処置をしてください。

なお、特殊な雰囲気に機器を設置する場合は、別途十分考慮する必要があります。

JRA耐塩害仕様・JRA耐重塩害仕様は受注生産品の場合があり、その際は別途納期を頂戴します。

(*)Takehiro Koyano, Trans. JSRAE, 2020, 37(2), pp. 257-266. (in Japanese)