空調業界最大のイベント『HVAC & R JAPAN 2024』に行ってきました。

『HVAC & R JAPAN』というイベントがあります。

空調業界最大の展示会で運営母体は「一般社団法人日本空調冷凍工業会」という組織で、こちらも空調業界最大の組織です。以下、公式サイトの引用です。

本展示会は、1956年(昭和31年)に前身の「国産冷凍機器展」として初めて開催されて以来、半世紀以上にわたり、国内唯一の冷凍・空調・暖房機器産業の「専門見本市・展示会」として親しまれてきました。
(引用:https://www.jraia.or.jp/hvac/)

つまり、どういうイベントかと言いますと、隔年に東京ビッグサイトで開催される空調業界の見本市、展示会ということで、空調機メーカーや、空調工具メーカー、それから材料メーカーなどなどが一度に集まって自社の製品やサービスを展示する見本市みたいなもので、メーカーにとっては最先端技術のお披露目会でもあるし、自社のサービスを売り込むチャンスでもあます。

我々のような現場の人間は「空調業界の行く末」みたいな時代の流れを感じ取る場所でもあります。

当然、国内の主要空調機メーカーは全て集結しています。ダイキン、パナソニック、三菱電機、三菱重工、日立、東芝、シャープ、富士通などなど各社、ブースを作って、さまざまな展示品を並べて来場者を楽しませたりマイクでパフォーマンスをしたりして注目を集めたりすることもあります。

今年で創立100周年のダイキンブースは気合が入っていた

2024年のテーマは『HVAC & R には未来の答えがある』

こちらが2024年のポスターですが、デザイン的にすごく良くできていると感じませんか?黒背景に白文字で必要なことだけが記されている非常にシンプルなデザインになっています。

そして、ポスター下部にはまるで図面のような描写があります。というか、日頃から図面と睨めっこしている空調職人にとっては図面にしか見えません。そして未来都市の背景、それから中央に七色に輝く道が示す先には「答え」となる光の束が描写されています。

そもそも、HVACとは、Heating、 Ventilation、Air Conditioningの頭文字を取ったもので、暖房、換気、および空調の総称として、日本語では空調システムと呼ばれています。

2024年、今回のキャッチコピーに「HVAC & R には未来の答えがある」とありますが、では一体、その〝答え〟とはなんなのでしょうか?ポスターをヒントに、会場内で答え探しをしてきました。

『カラーバリエーション』+『個性』という部分に時代の焦点がある

会場を少し回ってみると、色んなメーカーが「カラーバリエーション」をラインナップしていることに気がつきました。もちろん、「新しい技術」や「進歩」という視点で見てみると確かにそういったものもあるにはありますが、それは特段、「革新」と言えるものではなく、過去の延長線上でしかないものでした。

それよりもやはり、各社がまるで口裏を合わせたかのように「カラー」という部分に力を入れていることを感じました。いや、もしかしたら各社もそんなことには気が付いていないのかもしれません。

ただ、「ユーザーからこんな声があったから作りました」とか、「特に新製品はないのでカラーバリエーションを増やしてみました」とか、本当にそんな理由だったのかもしれません。理由はわかりませんが、おそらく、それが『時代の要請』ということなのでしょう。

例えば、エアコン本体を好きな色にすることができる、換気扇の色が選べる、室外機の設置台の色が選べる、同じ工具でもカラーが5色ある。などです。

ではそれが一体、何を意味するのか?HVACと何が関係しているのか?つまり、空調とカラーバリエーションがどんな未来創るのか?ということですが、僕にはその答えがわかったような気がしました。

カラーが選べるとか、好きな色にすることができる。というのはいわゆる「個性」ということではないでしょうか?これまではエアコンといえば「白物家電」の一つに数えられ、カラーといえば白しかありませんでした。白一択で、それ以外の選択肢はなし。「白以外はないの?」というお客さんの声すらありませんでした。

しかし、それがいつしか住宅の壁紙の色が選べるようになり、エアコンの本体色が選べるようになり、お客さんの選択肢がどんどん増えてきました。これはまさに時代の象徴のように思います。

誰かが言っていましたが、「もう2度とマイケル・ジャクソンのようなスターが現れることはない」という話があります。なぜなら、時代が違うからです。マイケル・ジャクソンのようなスーパースターが誕生した背景には、メディアの時代背景というものがありました。

つまり、アメリカで全米チャート1位を獲得すると、世界中の人がみんなMTVでその楽曲を聴くのです。世界中の人がみんな同じものを見ていた。だから、世界中にファンができてスーパースターが生まれる理由になっていたのです。

しかし、今の時代はどうでしょうか?今の時代は、顧客にどんどん新たな選択肢が増え、小さなコミュニティが無数に生まれる時代です。

昔はテレビ放送といえばNHKしかありませんでした。戦後の日本はNHKばかり見て、日本中が大河ドラマを見ていました。今はどうでしょうか?まずテレビは見ていませんよね。年配の方はまだテレビを見ているかもしれませんが、若年層はSNSを見ているか、もしくは動画配信サービスを利用しています。

それも、Netflix、Amazonプライムビデオ、Hulu、U-NEXT、TVer、Abema、などなど、動画配信サービスを行っている会社の選択肢だけでも色々あるんです。顧客の選択肢は増え、それぞれのマーケットシェアはどんどん小さくなっていきます。それが今の時代です。

MTVが一強だった時代にはマイケル・ジャクソンのようなスーパースターが土壌がありましたが、今は個人がライブ配信をして、それを10人とか15人の人が視聴するというような時代です。

そして、そんな小さな超マイノリティ型コミュニティが乱立し、それはまるでイワシの群れのように小さな個体が集まって集まって、一つの大きな塊になり、それが時代のうねりを作っているのです。

一人のスーパースターに10億人のファンがつくというような時代ではなく、無数の選択肢の中から自分だけの推しを見つけるという時代になったのです。これは、音楽の世界でも見られますし、例えば、動画サイトでもそうですし、通販サイトでもそうですし、よくよく身の回りを見渡してみれば、あらゆる場面で同時多発的にこの「選択肢の増殖化」が起こっていると理解できるはずです。

画一化された選択肢ではなく、あらゆる物事に対して自分で取捨選択することにより、それらを統合することで結果的に自分自身を象徴する「個性」となる。というわけです。そのわかりやすい例が「カラーバリエーション」というわけで、そんな時代には、自宅の壁に真っ赤なエアコンが設置されていてもいいはずですよね?職人がピンク色のハンマーを使っていてもいいですよね?

今まさに時代の焦点は「個性」というところにフォーカスされているとは感じませんか?

ダイキンのrisoraシリーズの特注カラー、展示用で販売はされていないがこんなエアコンがあったらいいなと思わせてくれる

住宅用換気扇カバーのカラーバリエーション

黄色いエアコンと赤いエアコン

外の換気フードのカラーとエアコンのリモコンもカラフルになっていた

HVAC(空調システム)と個性、空調の未来とは?

これからの空調の未来はどんな未来が待っているのでしょうか?

僕はエアコン職人なので、現場サイドからの視点しかありませんが、おそらく、今後5年〜10年くらいはエアコンというものに依存して人々は生活をしていくと思います。

現代では、エアコンというものは生活にはなくてはならない存在となっていて、近頃言われている「地球温暖化」や「猛暑」なんていうキーワードもよく耳にするようになり、ますます必要性を感じている人も多いと思います。

普通に考えれば、運転コストや導入コストなどが注目されると思いますが、実はもうそこは出し尽くされたといいますか、20年前や30年前と比べてかなり省エネ性能は上がっていますし、導入コストも省施工化などにより、従来よりも安くスピーディに施工できるようになり、結果的に導入コストも下がりました。なので、今回のHVAC & R JAPANではもうそこは敢えて触れていないと言いますか、もちろん、触れてはいますしこれからも追求し続けるべき大きな課題と命題ではあると思いますが、「イベントの目玉にする議題でもない」という感じなんですね。

これからの空調の未来をいうのは一つ「個性」というものをキーワードに展開されていくと僕は考えていて、例えば、カラーバリエーションも一つの個性ですし、デザインということでいえば「形」などのフォルムバリエーションも出てきても不思議ではないと思います。

それから、今はなんちゃってAIが搭載されていたりしますが、本物のAIを搭載して使用者のサンプルデータを集めて、家中の家電と連動して例えばIHクッキングヒーターが動いたら冷房がちょっと強くなるとか、位置情報を拾って、帰宅前に部屋を冷やしておくとか、人体にマイクロチップが埋められるようになったらマイクロチップと連動して血中酸素や心拍数で最適な空調をしてくれるエアコンとかも出てきそうですね。

なので、やはり大きな括りで言えば「個性」ということなんでしょうね。より属人性が高くなり、より主に忠実で役に立つエアコンになるということです。

例えば、最近では室内でペットを飼う人も増えてきたので、「犬のために24時間エアコンをつけっぱなし」という人も増えてきました。そういう使い方をする人のために、見守りカメラ付きエアコンとか、防犯システムつきエアコンとか、それもオプションでつけたりつけなかったりできるとか、例えば、車みたいにオーダーメイドで自己流にカスタムできるとか、今挙げた機能が実装されるかどうはか置いといて、大きな流れ的にはそのようは方向性に動いていく可能性が高いという話です。

そして、空調というのはどこまで行ってもただの空調なんです。

あれこれいろんな機能を搭載したところで、基本的には空間を温めるか冷やすかというその機能がエアコンには求められていることで、とりあえず冷えればいいし暖まればいいんです。なので結局は原点に回帰していくものだとも思うんですね。

基本的な機能だけを備えたシンプルな機種がいいという人もいると思うので、やはりオプション型になると思うんです。基本シリーズが5種類くらいあって、基本シリーズを選んで、そこからオプションを選んでいくというスタイルに変化していくのではないかと思います。

そんな未来を、今回のHVAC & R JAPANでちょっとだけ感じることができました。空調を取り巻く問題は様々です。地球温暖化で言えば、フロンの問題もありますし、脱炭素という文脈では省エネ化も重要な課題ですし、それから現場サイドでは職人の高齢化、材料の高騰、などの問題もあります。そんな中でも一つ「個性」というキーワードを軸に、未来が展開されていくのではないかと予測しています。

今回のHVAC & R JAPANではそのようなことを学ばせていただきました。
楽しかったです。

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